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■『戦旗』1614号6面 「サイバー警察局」新設の 警察法改悪を弾劾する 細野晴海 日帝―岸田政権は一月二八日、「サイバー警察局」および「サイバー特別捜査隊」設置を柱とする「警察法改正案」を閣議決定し、二月通常国会に上程した。三月二日に衆議院内閣委員会において極めて短時間の審議で可決が強行された。その後衆議院本会議でも可決された。三月二九日の参議院内閣委員会の審議を経たのち、三〇日に参議院で可決・成立した。四月一日にサイバー警察局が新設された。 たった三時間三〇分という拙速な審議によって強行可決された警察法改悪=サイバー警察局設置は、日帝が推し進める戦争体制づくりの一環だ。それは「特高警察」を象徴とする戦前型国家警察の復活をもくろむものであり、絶対に認めることはできない。さらに、国民民主党、立憲民主党がこの改悪案に賛成した。彼らが自民・公明の補完勢力であり、労働者階級人民の利害に敵対するブルジョア反動政党であることがますます鮮明となった。徹底的に弾劾する。 ●1章 警察法改悪は戦前型「国家警察」の復活 警察法改悪の最大の問題点は、これまで都道府県警察(自治体警察)だけに与えられていた捜査権限を、国家機関である警察庁が持つことに法的な根拠を与えたことだ。戦後警察のあり方の根本的転換であり、国家警察復活への重大な一歩だ。 戦前は、内務省警保局を頂点とする中央集権的「国家警察」が政治と一体化し、国家政策実現の中心を担った。一九二五年の治安維持法成立から四五年の敗戦まで、二〇年間にわたり、日帝は「聖戦完遂」の「大義」の下に、思想、言論、集会、結社、市民生活などのあらゆる労働者人民の権利や自由を奪い、監視、管理、統制下に置き、アジア太平洋諸国に侵略し植民地化を推し進めた。 特高警察は、このような戦前日帝の人民抑圧・統制の中心的機関であった。共産主義思想をはじめ、天皇制・天皇制イデオロギーや侵略戦争に反対する人々、労働組合、「天皇=現人神」を認めない宗教者や、マルクスの文献を読んだ学生までが、「聖戦の大義」を否定する「非国民」として弾圧の対象となった。 特高警察は、予防拘束や拷問による屈服・転向強要、スパイ潜入工作、隣組による相互監視・密告など、あらゆる手段を駆使して、人民を徹底的に弾圧・抑圧し、階級闘争を鎮圧した。共産主義者への拷問と転向強要は苛烈であり、日本共産党員であったプロレタリア文学作家の小林多喜二は、一九三三年、築地署で特高警察の拷問により虐殺された。 日帝敗戦後の一九四五年九月、連合軍総司令部(GHQ)は、「降伏後における米国の初期対日方針」を示して日帝に戦時体制の転換を要求し、その中心的国家機関である内務省―特高警察の解体を求めた。一〇月には「人権指令」(政治的・市民的及び宗教的自由制限の撤廃に関する覚書)を提示し、①治安維持法などの政治法規の破棄、②政治犯、思想犯の即時釈放、③一切の秘密警察、検閲などを含む関係機関の廃止、④内務大臣、警保局長、警視総監、特高警察官の罷免を要求した。 この指令により、内務省警保局長の下にあった特高警察関係者や内務省官僚約五〇〇〇名が追放されるとともに、獄中に囚われていた政治・思想犯三〇〇〇名が釈放された。四七年には「揺りかごから墓場まで」を制するとされ、国内行政のほとんどを担っていた内務省も廃止された。 これ以降、警察への権力の集中防止を理由に、中央省庁である警察庁とこれを管理する国家公安委員会には捜査権限が与えられず、都道府県警察が捜査権限を持つこととされた(「自治体警察制度」)。 だが、実際にはこれまでも、帝国主義強盗会議=サミットや、東京オリンピック・パラリンピック、天皇「代替わり」などの国家的行事をはじめ、沖縄・高江ヘリパッド建設や辺野古新基地建設の強行への他府県の機動隊派遣の際には、自治体警察の枠を越えた警察活動が行われてきており、「自治体警察制度」自体は完全に形骸化している。 今回の警察法改悪によって、警察庁は「サイバー事案」について直接捜査する権限を付与された。その実行部隊として約二〇〇名規模の「サイバー特別捜査隊」を関東管区警察局に設置し、全国を管轄区域とする。これは、中央省庁である警察庁が戦後初めて捜査権限と直轄の実行部隊を持つに至ったということだ。 政府は警察庁法改悪の立法理由を、「最近におけるサイバーセキュリティに対する脅威の深刻化に鑑み、国家公安委員会及び警察庁の所掌事務に重大サイバー事案に対処するための警察の活動に関する事務等を追加するとともに、警察庁が当該活動を行う場合における広域組織犯罪等に関する規定を整備する」としている。捜査の対象は、①国や自治体のインフラに影響を及ぼす事件、②パソコンを起動不能にしたり、勝手にデータを消したりする「マルウェア」(悪意のあるソフト)のような高い技術を使用した事件、③海外からの攻撃としている。これら三つを「重大サイバー事案」と規定し、「サイバー特別捜査隊」が捜査にあたるとしている。 だが、政府が規定する「重大サイバー事案」に対応する警察の専従班は二〇一三年以降東京、茨城、埼玉など一四の都道府県警の公安部門などに「サイバー攻撃特別捜査隊」としてすでに編成されており、警察庁があえて「サイバー捜査」を直接担当する合理的根拠とはなりえない。しかも、この都道府県警と警察庁の特別捜査隊との違いや任務分担についても不明瞭だ。つまり、政府の本当の狙いは、「サイバー犯罪対策」を隠れ蓑に、警察庁直轄の捜査機関を創設することにあるのだ。 今回の改悪では、対象を「サイバー犯罪対策」に限定しているが、今後、これが捜査手法や捜査対象の拡大へと結びついていくことは必至だ。日帝はこの「サイバー局」、「サイバー特別捜査隊」新設を皮切りに、今後さまざまな分野へと、直轄の部隊編成と捜査権限の拡大を狙っていこうとしている。警察権力の肥大化=警察法改悪を許してはならない。 ●2章 「サイバー犯罪」を口実とした超監視社会化許すな 警察法改悪で新設された「サイバー警察局」が対象とする「サイバー領域」とは、われわれ労働者人民が日常生活で利用している電子メールや、SNSなどコミュニケーションの場であり、憲法二一条(集会、結社、言論の自由、通信の秘密)や電気通信事業法で保障された領域だ。 今回の改悪は、日常的コミュニケーションツールとして使用されている領域に国家警察が直接介入するものだ。それは一昨年強行成立されたデジタル庁新設=行政のデジタル化や、マイナンバーのスマートフォンとの紐づけと連動することによって、国家権力が諸個人の動向を二四時間常時監視下に置くことが可能となる。 これまで警察権力は、反体制派を弾圧する手段として、秘密警察やスパイ、密告者、盗聴、尾行などの人海戦術的手法を主に使ってきた。だが、インターネットをはじめとするIT技術の飛躍的発達によって、国家権力は、従来的手法に加え、新たな弾圧手法を利用してきている。スマートフォンのGPS情報によって個人の位置情報を特定することが可能となった。またSNSやメールなどを通じて、対象個人の人的交友関係や思想信条をチェックすることもできる。さらには、街頭に設置された膨大な監視カメラによって、リアルタイムでの動向追尾も可能だ。監視カメラには顔認証システムが組み込まれており、これらはすでに実際の捜査にも利用されている。 この間の闘う仲間にかけられた「道路運送法(白バス)」でっち上げ弾圧(一五年六月)や関西生コン支部大弾圧(一八年~)では、取り調べや公判廷において、公安警察が被弾圧者個人のLINEやメールを、インターネットプロバイダーに照会していたことが明らかとなった。これらが個人間のやりとり、例えば何時にどこに集合などの証拠とされているのだ。また、諸個人の銀行口座も公安警察によって定期的に照会されている。 個人情報のほとんどすべてが国家警察に一元的に集約、分析され、その利用によって、諸個人の行動が国やブルジョアジーの意図する方向へと誘導される社会こそが日帝政府のめざす「スーパーシティ」構想=デジタル超監視社会だ。 現在、われわれ闘う労働者人民に、超監視社会化の中で強まる人民管理・統制といかに闘うのかが問われている。警察権力の日常的監視を常に意識する革命的警戒心をもちつつも、逆にサイバー空間での活動領域をおし拡げていくこと、そして何より現実世界でのわれわれ自身の団結力の強化が必要だ。 ロシア国内においては今まさに監視と弾圧、政府の情報独占の網をかいくぐって、ウクライナ反戦闘争が粘り強く闘われている。われわれはこのロシア人民の反戦闘争の蓄積に学びつつ、日帝の監視・弾圧強化と闘っていかなければならない。 |
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